やめられない止まらない、福井の冬水ようかん
一度口に入れたらやめられない、止まらない
福井では冬になると、おこた(こたつ)の上にみかんと一緒に「水ようかん」が登場するのがお約束。
平箱の蓋を開け、透明なフイルムをぺらりとめくると・・そこには一面の水ようかん。
付属の竹ヘラで切れ目に沿ってスーッとすくい、2/3程をヘラに乗せてお口へ向けてつるりと食べる。
そこには羊羹のイメージを裏切る、水分たっぷりでとろけるような柔らかさと甘さ。
食べてみるとわかるのですが、これがやめられない止まらない。黒糖のコクと餡のやさしい甘さが醸し出すのどごしの良さは、気付いたら一箱全部食べちゃった、なんてことも(大げさじゃないんですよ)。
次に箱を開けた時には、中身が空っぽなんてことも・・。
どうして、福井の冬水ようかんはこんなに美味しいのでしょう?
この水ようかんの独特な食感の謎を、製法やいろいろな観点から調べてみました。
そのカギは糖度にあり・・? のどごしのよいつるっとした食感を実現する、
「水分と糖度」の絶妙なバランス
水分と糖度の絶妙なバランスがポイント
福井の冬水ようかんは一般的な練羊羹と比べて柔らかく、振れば揺れるほど。そのボリュームと甘さとは裏腹に、水分が多い上に寒天をベースにしているので、意外とヘルシー。
この水ようかんの独特な食感は、どのような製法にあるのでしょう・・?
福井の冬水ようかんは、一般的な羊羹の製法と同じく、砂糖と餡を寒天で固めて作ります。
水分を多くして柔らかく作るのが特長で、そのため福井の冬水ようかんは水分が多く、糖度が低くなっています。(33〜34度。通常の練り羊羹は66〜70度)砂糖の分量を極力少なくすることでより甘味が少なく、あっさりすっきりとした味になっています。
また、糖度が低いということは、要冷蔵で保存が効かないということ。つまり、常温や夏のような気温ではすぐに腐敗してしまいます。冷蔵庫や流通機能が普及していなかった当時は、気温と糖度は重要なポイントでした。
その点、福井の冬の気温は0〜10度、室内温度も10度台。福井の冬の気温は、冷蔵庫として冷たすぎず弱すぎない自然の冷蔵庫として役目を果たしていたというわけです。
また、糖度が低いもう一つの理由として、江戸〜明治の時代に丁稚(でっち[住み込みで働いた見習い少年])さんが、福井の正月の里帰りにお土産に持って帰ったから、という説があります。
当時は和菓子は高級商品であり、あんこや砂糖がとても貴重な時代でした。お給料がまだ殆ど貰えなかった丁稚さんにとっては、本煉り羊羹より、あんこに対する水の量が多い水ようかんが価格的に買いやすかったのでしょう、丁稚さんの里帰りのお土産として福井に持ち帰られるようになりました。
この丁稚さんの里帰りのお土産が、福井の冬水ようかんの別名「丁稚羊羹(でっちようかん)」の由来になった、とも言われています。
こういった福井の歴史や気候によって、水ようかんの「水分と餡と黒糖の絶妙なバランス」が実現されました。
福井の冬水ようかんの「のど越しのよいかろやかな甘さ」の背景には、このような歴史と理由があったのです。
そしてこの美味しさがあるからこそ、福井の人は冬に水ようかんを食べ続けているのだと思います。
実はそれが冬に水ようかんを食べる最大の理由かも知れません。